1950年代に入ってからの西ドイツでは、いわゆる「Heimatfilm (直訳: ふるさと映画)」と呼ばれる映画が量産されました。
バイエルン地方からオーストリア、スイスにかけての風光明媚な山岳地帯や農村、あるいはリューデブルガーハイデなどを舞台にした、家族的で品行方正な作品群です。
内容的にははっきりいって、人畜無害なハーレクインロマンス的なものが多いようですが、当時の人々の生活や価値観を知るには楽しいものです。
ところでなぜ、こんなゆる~い作品群が戦後のドイツで人気になったたかというと、
けっこう深遠な理由があるようなのですね。
というのも、大戦中、ナチス・ドイツによって、そのイメージをゆがめられ、
国民の戦意を高めるプロパガンダとして悪利用された
「ふるさと・郷土(ハイマート)」という言葉を、
いま一度、正しく理解しなおそう、という国民的な動きがあったのだとか。
むごたらしく残酷な戦争に対するアンチテーゼとして、
また、戦後復興の心意気を込めたうえでの、
ゆる~くお気楽な娯楽作品、と哲学的に思考すれば、
なんだか腹に落ちる気がします。
さて、50年代から60年代にかけてのハイマートフィルムの代表的な作品は、
ハンス・デッペ監督、「黒い森の娘」(1950年)。
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同じくハンス・デッペ監督の「緑の原野」(1951年)。
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またまたハンス・デッペ監督の、「原野に花咲くとき」(1960年)。
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このハイマートフィルムの流れは80年代に入ってからも、農婦アンナ・ヴィムシュナイダーの自伝ベストセラー小説を映画化した 「秋のミルク」(Herbstmilch, 1989)などに受け継がれ、さらには、マルクス・H・ローゼンミュラー監督による、『Wer früher stirbt ist länger tot(英題:Grave Decisions )
』(直訳: 早く亡くなった人はうより長く死んでいる)は、2006年に公開され、観客180万人動員の中ヒットとなり、2011年に公開された同監督の、『オレンジ色の夏Sommer in Orange 』も、なかなかの人気となり、バージョンアップしたハイマートフィルムとしての流れを確立しています。
「秋のミルク」は、日本ではDVDは発売されていないようですね。
原作書籍はこちら。
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ドイツで発売されているDVD。
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ローゼンミュラー監督の作品2つ。
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