ズュールのスシ Sushi in Suhl (2012)

1970年代初頭、旧東ドイツの片田舎のズュール市にある、

日本食レストランが大流行していた!?

 

情報が統制され、物流もままならない

雪深い東ドイツの片田舎で、

「外国に行けないのなら、外国を呼び寄せてやろう!」

という壮大な夢を実現させたロルフ・アンシュッツ氏の

実話をもとにした、オスタルギー映画、楽しいレストラン・コメディです。

 

親から受け継いだ地元のレストラン、その名もバリバリにジャーマンな

ヴァッフェンシュミード(Waffenschmied=武具士)のシェフ、

ロルフ・アンシュッツは、新しいものを試すのが大好き。

 

先日も、HO(*後述)23周年記念の式典に、

地元の伝統的な食材でありながら忘れられてしまった

甲虫のスープを腕によりをかけてサービスするも、

HOのやり手の美人ディレクターからは大不評。

 

それにもめげずに、今度は日本食に挑戦。

とはいっても、自分でも食べたこともないものを、

本の記述を頼りに、東ドイツで手に入る食材で

なんとか再現してみる、そのチャレンジ精神やよし。

 

引退した父親が、趣味で湖で釣ってくる魚や、

しょうゆがないからウスターソース、

サケがないからウオッカに米粒を混ぜてみたりして、

なんとか怪しい「ヨセナーベ(寄せ鍋)」が完成し、

これまた自分で納屋を改造し、テーブルや椅子の足を切ってしつらえた、

怪しい日本ルームに友人・知人を集め、

ウエイトレスの黒髪美人ギーゼラにキモノを着せて

日本食パーティを開催。

 

これはいける、と踏んだアンシュッツさんは、

ついに東ドイツ初の本格的日本食レストランとして展開。

地元の新聞も取材に来たりして、

今やレストラン・ヴァッフェンシュミードは長蛇の列の大繁盛。

 

日本人は熱い風呂に入るのが好き、と知れば、

さらに全裸で、しかも男女混浴で、

お湯につかりながらサケを飲めるフロも作り、

レストランはいよいよ一大エンターテインメントの様相を呈してくる。

 

その噂を聞きつけて、イエナ大学に滞在中の日本人プロフェッサーが

レストランを訪問し、このドクター・ハヤシの指導の下、

ついにスシまでも作り出すアンシュッツさんだが・・・

 

世界の情勢や物流から遠く隔てられた、

社会主義国の人口3万人ほどの片田舎で、

当時これほどまでに日本が受け入れられていた、

ということがまずメルヘンぽくていいですね。

 

なによりも、他人から見ればまるで絵空事のような、

奥さんさえもあきれてしまうような夢を、コツコツと努力して、

ひとつずつ実現させていくその姿勢、

非常に勉強になります。

 

主人公のアンシュッツ氏は、その後チューリンゲン州日独協会の会長となり、

さらには日本国政府から勲章も授けられたとのこと。


メルヘンにも磨きがかかります。

 

 

*ちなみに、HOというのは、独語Handelsorganisation の略で、

旧東独の当時の社会主義国統制経済の中で、

食料品の統括管理をする政府団体、ということらしいのですが、

どなたか詳しい方がいらしたら教えてください。

 

 

 

 

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